小規模な会社の場合、経理業務は1~2人のベテラン社員がおこなっているケースが少なくありません。その担当者も前任者から引き継いだままの仕事をしていることが多く、非効率な仕事の進め方になっている可能性は大いにあります。
経理業務の無駄を見つけることができれば、余剰になった人員をコア業務に回すなど、会社経営にとってプラスになるでしょう。
本記事では経理業務の負担軽減が必要な理由や負担が大きくなりやすい原因、経理業務を効率化させるための方法などについて解説します。
経理業務の負担軽減が必要な理由

経理業務の負担軽減が必要な理由は、効率的に経理業務を行わないと、企業活動全体に悪影響になる可能性があるためです。
経理業務は毎日の仕事だけでなく月単位の仕事や年単位の仕事もあり、その作業内容は膨大なものになります。企業の通信簿にあたる「決算」で利用するため、どの仕事も重要度が高いです。
【経理の仕事の例】
| 業務内容の例 | |
| 毎日行う仕事 | ・売上集計
・帳票の作成 ・現金管理 ・経費の清算 |
| 月単位で行う仕事 | ・給与計算
・給与支払い ・領収書・請求書の発行 ・買掛金や売掛金の管理 ・源泉徴収 ・社会保険料の納付 |
| 年単位で行う仕事 | ・年末調整
・決算業務 ・確定申告 ・税金の納付 |
経理の仕事のミスは決算に影響するため、複雑でありながらミスができない重要な仕事です。
効率化できずに放置すると経理担当者の作業負担が大きくなりすぎ、ヒューマンエラーが発生する原因になります。
日々発生するヒューマンエラーは決算や確定申告に影響するため、その時期にさらに作業内容が増えて会社の人件費も圧迫することになります。
経理業務の負担が大きくなりやすいのはなぜ?

経理業務はそもそも作業量が多く、仕事をこなすうえではさまざまな課題があります。
ここでは経理業務の負担が大きくなりやすい理由として、3つに絞って詳しく解説します。
専門的な知識が要求されやすい
経理部門の負担が大きくなりやすい代表的な理由の1つが、仕事をこなすのに専門的な知識が必要になる点です。
営業や工場作業者の場合は全くの未経験でも配属初日から何らかの仕事で貢献できる可能性は高いですが、経理の仕事では会計や簿記の知識がないと一人で始められる作業が少なくなります。
業務を行える担当者が限定されることで1人に負担が集中しやすい構造になる可能性が高いです。
紙の受け渡しによる無駄な作業が発生している
現在はどの業界でもさまざまな業務でペーパーレス化が進行していますが、経理に関してはいまだに「請求書」や「領収書」を紙で受け渡しているケースが少なくありません。
紙の書類は印刷したり郵送したり、ファイリングしたりといった仕事が手間になりやすく、業務の効率化を進めるうえでは大敵になりやすいです。
また、印刷に関連するコストだけでなく、書類関係を保存するための場所も必要で、管理場所の管理コストもかかります。
紙を中心に経理作業を進めると作業者の時短にならないだけでなく、コスト面でも起業運営にマイナスになる可能性が高いでしょう。
法改正への対応が求められる
どの時代も営業力さえあれば商材が変わっても売り上げにつながる営業などとは違い、経理部門は最新の法改正に対する理解が欠かせません。
例えば直近では、2022年に「電子帳簿保存法」が改正され、電子取引した領収書や請求書を紙に出力して保管することができなくなり、電子取引への対応が求められるようになりました。
通常業務に加え、電子取引しているものを把握したうえで取引データの保管場所や業務フローを整える必要性が生じました。
今後も会社運営にかかわる法律が改正されることが予想され、そのたびに経理部門は対応に迫られることになるでしょう。
法改正への対応は完全な「プラスα」の業務であり、業務負担が大幅に増す原因になります。
経理業務の負担軽減には課題も多い

経理業務は担当者の負担が増しやすい環境にあり、企業としては常に経理負担の軽減について考える必要性が高いのは解説したとおりです。
ただ、さまざまな理由から、経理業務の負担軽減が難しい場合もあります。
例えば、「従業員や取引先からの反発」です。
これまで紙で請求書や領収書を発行してきた自社の経理部門の社員が、新しいシステム導入や業務フローの導入にストレスを感じ、慣れないうちはかえって負担が増加することで反発される可能性があります。
また、自社が新システムを導入するにあたって取引先にも契約方式やフォーマットの変更をお願いする場合、理解が得られないことも考えられます。
業務の効率化を進めるには、事前の説明で十分に理解を得ておくことが大切です。
経理業務の負担を軽減するための効率化の方法
ここからは、実際に経理業務の負担軽減をするために知っておきたい方法について解説します。
実際にどうやって業務負担を減らしていくのかは人によって異なりますが、代表的な方法として今回は以下の5つを紹介します。
- 現状の作業フローの無駄を洗い出す
- 「ECRS(イクルス)の原則」を使って業務を見直す
- 自動化できる業務がないか探す
- ペーパーレス化やキャッシュレス化を狙う
- 経理代行サービスを導入する
現状の作業フローの無駄を洗い出す
業務の見直しの第一歩は、現状の作業フローの無駄を洗い出すことです。
まず、どの手順でどんな業務をしているのかを確認し、経理部門の仕事の全体像を明らかにしておきましょう。
例えば、請求書を処理する業務であれば、請求書の受領から支払いまでのフローを確認し、どこかで重複する作業や無駄な作業が発生していないかを確認します。
また管理者の目線だけで作業フローを見直すだけでなく、担当者に直接声を聞いてみることも重要です。
フロー上ではわからない作業の無駄を、現場の担当者が感じ取っている可能性もあるためです。
「ECRS(イクルス)の原則」を使って業務を見直す
業務の効率化に行き詰ったときは、有名な「フレームワーク」を利用して業務改善を試みることも検討してみましょう。
例えば業務改善のフレームワークとして有名なのが「ECRSの原則」です。
| 【ECRSの原則とは】
以下の4つの観点から、業務を見直すフレームワークのこと ・排除(Eliminate)…作業がなくなっても問題ないか ・結合(Combine)…作業を1つにまとめられないか ・再配置(Rearrange)… 作業の順序を変えることで効率化できないか ・単純化(Simplify)…作業を簡単にできる方法はないか |
可視化した業務を上記のフレームワークに当てはめることで、改善点が見えてくる可能性もあります。
クラウドサービスなどで自動化できる業務がないか探す
作業量が多く内容が複雑な経理業務に関しては、システムの導入で自動化できないかも考えてみましょう。
システム導入で計算を自動化することができれば、ヒューマンエラーによる計算ミスが減らせるほか、「人件費の削減」、「事務作業時間の削減によってコア業務に集中できる」などのメリットがあります。
例えばあるシステムでは、請求書の料金計算から回収までを自動化できるため、紙の請求書の印刷や郵送などの負担を削減することが可能です。
ペーパーレス化やキャッシュレス化を狙う
小口現金の取り扱いや紙の領収書・請求書の管理を続けると、現金の入出金管理や書類のファイリングなどの業務が煩雑になり、どんどん経理業務の負担が増してしまいます。
ペーパーレス化とキャッシュレス化を進めることで、金銭管理や書類管理をパソコン上でおこなうことが可能になり、印刷や書類保管の手間を大幅に削減することが可能です。
経理代行サービスを導入する
人手不足などが原因で、経理部門のなかでも毎日発生している記帳業務などの作業がやりきれない場合、経理代行サービスを利用する方法もあります。
経理代行業者を利用することで経理のプロに記帳業務などを外注でき、人手不足の解消や属人化からの脱却のきっかけになります。
まとめ
経理業務は専門性が高いことで属人化しやすかったり、最新の法改正への対応に迫られたりして複雑化しやすい特徴があります。
経理業務のシステム変更には内外からの反発も予想されますが、成功すれば属人化からの解放や人件費の削減が可能になります。
自社に合う業務削減の方法はさまざまですが、経理システムの導入や経理代行サービスの活用も視野に、経理業務の負担軽減を検討してみましょう。
監修者
![]() |
甲田拓也 (公認会計士税理士甲田拓也事務所 代表)
早稲田大学卒業後、PwCグローバルファームや個人会計事務所を経て現事務所を設立。節税、資金繰り、IPO・マーケ支援を行うプロ会計士として活動。YouTubeでも情報発信中! |


