中小企業は業務量に対して人手不足になっていることが多く、経理業務が重荷になっているケースも少なくありません。コア業務に集中して売上と利益を上げるためにも、効率化の方法を知っておくと良いでしょう。
本記事では、中小企業の経理の現状と効率化する方法、業務を効率化するメリットを解説します。
中小企業の経理は効率化できていないことが多い
中小企業は大企業に比べ、経理業務が効率化されていないことが一般的です。
大企業は十分な社員がいて一人ひとりの役割分担が明確であり、社員の専門性が高くなっています。一方の中小企業は社員数が少なく、どうしても「浅く広く」の業務になりがちです。
ここでは中小企業の経理の課題について詳しくみていきましょう。
経理担当者が1人だけのケースが多くダブルチェックができない
中小企業では、経理の仕事がわかる担当者が1人だけというケースも珍しくありません。社員数が限られている中小企業では営業や製造など売上に直結する部署に社員を割き、サポート部門である経理は少数精鋭で回す傾向にあります。
従って、多岐にわたる業務を1人でこなすことになります。
1人しか経理担当者がいないため、ダブルチェックができない点が大きな問題です。1人に業務を任せた結果、決算の時期に大きなミスが見つかる可能性もあります。
1人の業務範囲が広すぎる
1人の業務範囲が広すぎるのは、中小企業の経理部門ではよく見られる光景でしょう。
大企業では複数人で分担する経理業務を1人でこなすことも多い中小企業では、1人の業務量がどうしても多くなります。
1人の作業量が多くなるほどその社員がいないと仕事が進まない「属人化」が進み、急に経理社員が退職したときに業務に支障が出る可能性もあります。
不正があっても気づかない
経理業務に携われる従業員の数が少ないと、不正が横行する可能性がある点にも注意が必要です。
経理業務は会社のお金を管理する重要な仕事ですが、1人だけの経理でダブルチェック体制がないと、現金の取り扱いを1人に任せることになってしまいます。
信頼している社員が経理担当者だったとしても、会社の資金を私的に流用してしまう可能性もゼロではありません。
中小企業の経理を効率化する方法5選
中小企業の経理業務の属人化を防ぐには、経理社員1人の負担を軽減するための効率化が大切です。
ここでは、中小企業が経理業務を効率化するための方法として5つを解説します。
現状分析をして課題を明確にする
経理業務を効率化するには、いきなり対策を立てるのではなく、業務のどこに問題があるのかを明確にしましょう。
一例としては、現在の業務を全て書き出したあとに時系列で組み直し、各業務にかかる時間を記入していきます。
業務内容と時間を可視化すると「どの業務に時間がかかっているか」がわかり、対策するべき部分が明確になります。
また、時系列にしっかり並べ直す作業も重要で、仕事の順番を明らかにすればそのなかで無駄な工程がわかることがあります。不要と判断した業務をまるごと削除できれば、作業内容が大幅に少なくなる可能性もあるでしょう。
RPAを活用する
RPAとは、ソフトウェア上のロボットを活用して業務を自動化できる仕組みです。
単純な反復作業を自動化できるため、経理業務においても「証憑の取り込み」など決まった定型業務の一部を自動化できます。
繰り返しの作業を自動化できれば、大幅な時間短縮も可能でしょう。
エクセルのマクロを活用する
経理業務にエクセルやスプレッドシートなどを利用している場合、関数やマクロといった機能をフル活用することで効率化につながる可能性があります。
例えば関数を利用すると、ミスが多い箇所を手計算せず、自動的に入力ができるようになります。
また、自分がおこなった作業を記憶して次回から自動化できる「マクロ」という機能があれば、毎回多くの時間を費やさず、効率的に経理業務が可能になります。
エクセルやスプレッドシート、関数、マクロなど専門性の高い対策内容ではありますが、しっかり対策できれば大きな効果を見込めます。
クラウド会計を導入する
業務を効率化するには、クラウド会計など会計ソフトの導入も検討しましょう。会計システムがあればエクセルやスプレッドシートの関数やマクロの知識がなくても業務を自動化でき、経理担当者は余った時間を別の業務に充てられます。
クラウド会計は自動アップデートがおこなわれるため再インストールする必要はなく、利用者が複数いる場合でもアカウントの共有が可能です。
また、クラウド会計なら会社にいなくても経理処理が可能です。在宅ワークを検討している企業にとってはクラウド会計を導入するメリットは大きいでしょう。
経理代行を導入する
経理業務の効率化のためには、経理業務のアウトソーシング化も検討しましょう。経理代行業者に依頼することで自社の社員の作業が簡素化されるだけでなく、人件費の削減や法改正への対応などさまざまなメリットがあります。
外注費用こそかかりますが、新たに経理担当の社員を雇うより安く済む可能性があります。
中小企業会計要領を導入する
業務の効率化を狙うなら、「中小企業会計要領」を導入することも検討してみましょう。
中小企業会計要領は文字どおり中小企業が自社の事業実態に合わせるように作られたもので、中小企業庁のサイトで閲覧が可能です。
中小企業会計要領の利用は義務ではありません。ただ、要領に従って経理業務を進めると、一般的には金融機関や取引先から評価されやすくなるといわれています。
もし将来的に融資を受ける可能性があるなら、基本要領に沿って経理業務がおこなわれるように仕組み作りをすると良いでしょう。
中小企業の経理業務を効率化することのメリット
中小企業の経理業務を効率化することで、それまでと比較してさまざまなメリットがあります。
ここでは、中小企業の経理を効率化させた先にあるメリットとして、3つ解説します。
余計なコストを削減できる
経理業務を効率化できれば、会社のコスト削減が可能というメリットがあります。
特に削減できるのは、経理業務の社員の人件費です。1人に仕事が集中すると定時では終わらずに残業をすることになり、基本給の1.25倍の残業代の支払いが発生します。
経理業務を効率化できれば社員の負担軽減はもちろん、それによって残業代が少なくなれば人件費の削減や利益の増加につながります。
また、業務を効率化して作業時間が短くなればヒューマンエラーが少なくなり、さらに効率よく仕事を進めることも可能でしょう。
社員がコア業務に集中できる
経理業務のなかでも定型の業務を効率化できれば、ほかの業務に割ける時間が多くなります。
特に重要なのは「コア業務に割ける時間が増えること」です。これまで経理処理に使っていた時間を「事業計画の策定」「業績の分析」など売上や利益に関係あるコア業務に充てられれば、企業の業績アップの一助になる可能性もあるでしょう。
人件費削減という目先の利益だけでなく、長期的な売上・利益の上昇まで期待できます。
労働環境の改善につながる
経理業務を効率化できれば、労働環境の改善につながります。
それまで残業ばかりでなんとかこなしていた業務を効率化すると残業時間が減るため、従業員の満足度向上に期待できます。満足度が高い状態を維持できれば、「急に経理担当がいなくなる」という事態を未然に防ぐことができます。
また、対策のなかでクラウド会計を導入した場合はリモートワークを導入でき、柔軟な働き方を実現できる可能性があります。
まとめ
中小企業の経理業務は1人の経理社員が任されているケースが多く、そのままでは属人化が進んだり不正を検知できなかったりする可能性があります。また、労働環境がよくないと経理社員の早期退職の要因になることもあるかもしれません。
経理業務の効率化ができれば、経理社員の労働環境が改善されるだけでなく、社員がコア業務に集中できれば企業の業績アップにつながるとも考えられます。
自社に合う方法で経理業務の効率化を図り、業績アップや離職率低下などを目指しましょう。
監修者
![]() |
甲田拓也 (公認会計士税理士甲田拓也事務所 代表)
早稲田大学卒業後、PwCグローバルファームや個人会計事務所を経て現事務所を設立。節税、資金繰り、IPO・マーケ支援を行うプロ会計士として活動。YouTubeでも情報発信中! |